続・水槽の中の一生
現在・過去・未来

続・水槽の中の一生
　先日、ここに金魚のことを書いた。すると翌朝、五匹いたうちの一匹が
水槽に浮いていた。
　五匹のうち少し大きめのと色に特徴のある二匹は区別できるが、ほかの
三匹はどれがどれだかさっぱりわからなかった。死んだのはそのうちの
一匹だ。この、死んでしまった一匹との特定の思い出なんか、何もない。
　とりあえず土の中に埋めてやったものの「この金魚が死んだ」という
ことを、私が今後もいちいち覚えているかどうかはあやしい。ただ、金魚の
ことをホームページに書いた翌朝に、ある一匹の金魚が死んでしまったと
いう出来事なら、きっといつまでも覚えているであろう。

現在・過去・未来
　古いアルバムに、幼い頃の私が写っている。私には、その頃の記憶も
ある。
　彼女がアルバムから飛び出して私の目の前に現れたなら、それは
もはや私の同一人物だとは言えまい。いまの私にとって、過去の自分は
別の人格だ。
　たとえば彼女の大脳の情報をすべて、いまの私の脳に取り込んだと
したら、私の心は拒絶反応を起こしてもがき苦しみ続けるに違いない。
たとえ輸血や骨髄移植で全く拒否反応の出ない間柄の体ではあっても。

　そのアルバムの私は、確かに私だ。私はこの小さな自分を経過して、
いまここにいる。
　あのころの私は今どこにいるのかといえば、ここにこうしているという
わけだが、実際はまるですっかり別の人間であるかのようだ。

　過去の私はいつの間にかいなくなってしまった。本人も気づかない
うちに、過去の自分はどこかへ行ってしまっているのだ。
　そうして、いまの私もきっとすぐにいなくなる。もう、去年の私だって
今年のここには存在し得ないのだから。
　私は、いつだってすぐにいなくなる。そして、未来にもずっといないことが
保証されるようになり、「私がいない」ということすら誰にとっても
無意味な事象になってしまうに違いない。